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== 小説・エッセイ ==

ベタな青春小説!でも・・・『ぼくたちのアリウープ』五十嵐貴久

2005年のロケットボーイズなど、高校生の青春物も手掛けてきた五十嵐貴久の最新作は、高校のバスケットボール部が舞台。

ぼくたちのアリウープぼくたちのアリウープ
(2012/04/10)
五十嵐 貴久

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主人公、斉藤順平は、バスケがやりたい一心で、無理目の文武両道の私立高を受験し、奇跡的に合格。しかしバスケ部は3年生の起こした暴力事件で一年間の対外試合禁止処分状態になっていた!おまけに2年生部員からは自分達以外は信用できないから、誰も入部は認めないと宣言され、わずかな入部希望者も雲散してしまう。

あきらめられない順平は残った入部希望者、ツルと供に2年生部員との試合での対決を申し込む!試合に勝ったら正式な部員として認めてもらう約束を取り付ける2人だったが、あと三人以上のメンバースカウトは難航。
約束の8月31日の試合に勝てるのか?


という、ベタな…、あまりにもベタな青春小説!
しかも集まってくる新入部員のダメダメぶりとかもふくめ、読者の期待を裏切らない、完全なる予定調和のスートーリー展開!


しかし、なぜだか読んでいて楽しい…。
あさのあつこの青春物を彷彿させる爽やかささえ感じられるのはディテールの上手さか?


例えていうなら、水戸黄門や暴れん坊将軍といったベタな時代劇を見ている時に、予定調和なストーリー展開よりも、印籠の出し方のシチュエーションや殺陣や役者の演技に目が行く様な感じ…でしょうか。
読者の興味がストーリー展開よりも、キャラクターの面白さやバスケの試合展開のディテールに向かうからでしょう。

体育館でのバスケシューズの軋みや、ボールのバウンンドの音、プレーヤーの息遣いが感じられる、描写が秀逸でついつい引き込まれてしまいます。

この辺は五十嵐貴久の青春小説の上手さを感じてしまいます。

ともあれ、読んで楽しいベタベタ青春スポーツ物です。気軽に読めるエンタメとしてお薦めです。
読後の感想・おすすめ度⇒★★★(青春小説がおすきな方にはオススメ)
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┃ テーマ:読んだ本の紹介 ━ ジャンル:本・雑誌

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== ビジネス・人文 ==

『かっこにっぽんじん(日本人)』橘玲

ストーレートでわかり易い表現で知的衝撃を読者にもたらしてきた橘玲の最新刊。
タイトルの意味は、日本人をカッコに入れてみることで、我々とは何者か?世界とはどんなところなのか?を再確認しようという意図でつけられています。


(日本人)(日本人)
(2012/05/11)
橘 玲

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PART1では、タイ社会と日本の類似性から説きおこし、ちまたに溢れる“日本人=特殊論”で述べられている事の多くは、アジア農村部に共通してみられるもので、決して特殊ではないと指摘。
日本の特殊性を述べる日本人論は、西洋から輸入されたオリエンタリズムをもとに人工的に作られた自画像にすぎないと述べます。

その上で、イングルハートの価値観調査を引いて、
あえて日本人の特殊性を挙げるとすれば、“世俗性=合理的価値”の傑出した高さにあり、ご利益のある神と自分の得になる権威しか認めない日本人は、元来、常に“自分らしくありたい”と考える個人主義的傾向が強く、それゆえ共同体を維持する為に“空気の支配”や世間の拘束を必要とした、と主張。

地縁も血縁も捨て去った日本人は、
学校や会社というたまたま出会った“場”で共同体(イエ)をつくるのだが、場を失ってしまえば孤独に戻ってしまうのであり、無縁社会は日本の運命である
と論じます。

PART2では、グローバルスタンダードとはお互いの殺し合いを回避する必要から生まれた、言語や宗教や人種を超えて従わなければならない最低限のルールであり、決して西欧のローカルルールではないと指摘。
グローバル空間ではローカルルールはグローバルスタンダードに対抗できない。これはどちらが正しいかの問題ではなく、グローバル空間では、好むと好まざるとに関わらず誰もが従うしかないということだ
と結論づけます。
社会そのものがグローバルであったアメリカは、世界各地で発生するグローバルスタンダートとローカルルールの衝突ではグローバルスタンダートの側に立つことで常に相手を圧倒できる点をあげて、“アメリカが俺たちのなわばりを侵そうとしている”としてローカルルールを振りかざしても勝ち目はないという現実を突き付けます。


PART3では、著者のリバタリアンとしての視点から、グローバル化世界の中の日本人社会の在り方として、退出不可能な閉鎖的なイエに代わって、国家を枠組みだけとして、そのなかに退出の自由な無数の共同体を創造してゆくことをユートピアとして夢想。
いかなる超越者(絶対伸)も信じない徹底的に世俗的なひとびとによって構成される、誰もが自由に自己表現・自己実現できる社会に、日本が最初に到達する<夢>について語られます。


一気に読ませる面白さがありました。
特に、前半に展開される日本人論は、ある意味従前のものと180度違う部分が有るのですが、同時になるほどと納得させられる説得力があります。
最後に語られるバザール的な退出自由な共同体については、堺屋太一の言う職縁社会から自尊好縁社会への転換と共通するものを感じました。こうした変化を時間軸としてはどれ位の長さで考えているのか著者に聞いてみたい気がします。


何はともあれ、ここ最近の日本人論としては出色の面白さですので、是非ご一読を!
読後の感想・おすすめ度⇒★★★★(読みやすく且つ刺激的!)

┃ テーマ:読んだ本 ━ ジャンル:本・雑誌

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== 小説・エッセイ ==

美術界の内幕が垣間見える『楽園のカンヴァス』 原田マハ

『カフーを待ちわびて』『ランウェイ☆ビート』などの話題作を発表してきた著者の最新作は、山本周五郎賞を受賞をした、またまた話題の作品です!

楽園のカンヴァス楽園のカンヴァス
(2012/01/20)
原田 マハ

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原田宗典さんの妹でもある著者。もともと作家をめざしていたのかな?などと勝手に思っていたのですが、さにあらず元々キュレーターとして活躍されMoMAに勤務していたこともあったのですね。

本作ではそんな著者の経験と知識がいかんなく発揮された、絵画をめぐるミステリー…。
ストーリーの中心となるのは、アンリ・ルソーの「夢」という作品。


日本人にとってルソーの絵ってなじみ深いですよね。だって美術の教科書に「眠るジプシー女」とか「蛇使いの女とかが載っていたりするじゃないですか。子供心にも、ルソーの絵って想像力を掻き立てる様な力があって、印象に残るんですよね。ファンタジーさと物語性が日本人好みとでもいいましょうか。
私もご多分に漏れず、ルソーを知ったのは美術の教科書で、初めて現物を見たのはMoMAの改修工事中に、作品を借り上げて上野でやったMoMA展の時です。


さて、本作の話の始まりは、まさにMoMAの改修に合わせてルソーの作品を日本に借り出そうとしている2000年の日本から始まります。
日本の美術館の実情やMoMAのキュレーターの日常など、我々が知らない様な業界ネタもあって一気に話に引き込まれて行きます。

ストーリーの中核は、回想として遡る1983年のスイス・バーゼルが舞台。
伝説のコレクターが所有するルソーの夢と瓜二つの作品「夢を見た」の真偽の鑑定をめぐって早川織江とティム・ブラウンの2人が対決するという展開。しかし鑑定対決といっても作品をルーペで観察して…というのではなく、作品とルソーについて書かれた、創作とも真実とも判別のつかない7章からなる物語を読んで判断を下すというもの。
史実に基づいて描写されるルソーの製作過程のお話は、ピカソアポリネールといった実在の人物が登場する、なかなかリアルな展開で、“謎”にグイグイ吸い寄せられる快感が味わえます。
ラストの方は、ちゃんと読者を楽しませてくれる、ドンデン返しも用意されており、素敵なエンタメになっています。山本周五郎賞にハズレナシ!という訳ですね。


なんですが、ただ正直なんというか、私的にはストーリーに没入できない面もあったことは事実です。謎の設定の素晴らしさと重厚さに比べて、登場人物の感情変化がやや唐突というか平板というか…。対立してたかと思うと、なんか急に親切になっちゃったり、ぇもう恋しちゃうのか?みたいな…。
韓流ドラマを見た時に感じる様な違和感を若干感じた次第です

つまりこれは私が単にオジサンだから!という事かもしれませんw

ラストに向かって甘いラブストーリーの感じが強まっていくので、女性向きなのかも知れません。

なんだかんだいっても、20世紀初頭パリの美術界の熱気と現代美術界の欲望が絡み合う展開は十分読みごたえがありますので、ぜひご一読を!
読後の感想・おすすめ度⇒★★ ★ ★(美術ファンもそうでない方も楽しめる!)

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== 小説・エッセイ ==

オーデュボンの猫?『夜の国のクーパー』伊坂幸太郎

 伊坂幸太郎の最新作!
オビによれば10冊目の描き下ろし長編小説なんだそうです。あれ?もっとあった様な気もするんだけど…。


夜の国のクーパー夜の国のクーパー
(2012/05/30)
伊坂 幸太郎

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私にとって、伊坂幸太郎とは、作品によって好き嫌いの分かれる作家なんですね。
『オーデュボンの祈り』ゴールデンスランバーとかは好きな作品で、『ラッシュライフ』『陽気なギャングが地球を回す』とかは、イマイチ入り込めない感じがしました。


さて本作は、仙台からつり船で出航した男が難破してたどり着いた異世界は、猫が人間の言葉を話す不思議な国でした…という舞台設定になっており、物語は猫のトムのモノローグから始まります。
伊坂ファンなら、いやがうえにもデビュー作『オーデュボンの祈り』を思い出してしまうところでしょう。あの島でしゃべるのは、猫ならぬ案山子でしたよね。
という訳でおなじみの人型シルエットも今回は猫と男の2パターンが出てきます。


舞台となる国は、中世都市を思わせるような防壁に囲まれた小さな小さな街で、そこに暮らす支配者、冠人、酸人と、被支配者である善良なる住民が暮らしている。そこへ戦勝国として鉄国の占領軍が支配者として乗り込んでくる。
並行して猫に駆られる存在の鼠と、鼠を狩る立場の猫の対話の話が語られ、
全体のバックには、杉の木が変異して動き出す化け物クーパーと、それを倒す為のクーパーの兵士の物語が、伝説の様に挟み込まれていく。


例によって伊坂ワールド独特の、個別の要素を組み合わせてゆく鮮やかさはありますが、今回は時間軸をつかった細かな伏線の展開といった手法は、殆どとられず、かなりオーソドックスに(伊坂幸太郎にしては)ストーリーは展開して行きます。

最後の方にはちゃんと読者を楽しませてくれるヒネリも入っていて、
国家・支配・権力といった重たいモチーフを軽やかな文体でエンターテイメントにしてしまうところは、さすがであります。


物語としては面白い…。
でもでも、正直『オーデュボンの祈り』を読んだ時の様なワクワク感はあまり感じられませんでした。
おそらく、小気味よいテンポ感がない事と、とラストの盛り上がりがもうひとつ…と感じたためだと思われます。
まあ完全に個人の好き嫌いの問題でしょうが。


そうは言っても、読みやすく且つ読み応えのある長編小説にまちがいありません。
特に伊坂ファンなら絶対読むべき一冊!と太鼓判が押せるのでした。
読後の感想・おすすめ度⇒★★ ★ ★(猫好きの方にもオススメです!)

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== 小説・エッセイ ==

バガボンド休載の裏側!『空白』井上雄彦

人気漫画バガボンドが休載となった2010年12月から連載が再開した今年の3月の間の、著者「井上雄彦」のリアルタイムの心情を、数回にわたるロングインタビューで解き明かしてゆく興味深い一冊。

空白 (Switch library)空白 (Switch library)
(2012/05/10)
井上雄彦

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2010年初頭に著者自身がHPでバガボンドの年内終了をほのめかした事から、ファンの間でちょっとした騒ぎとなったことは記憶に新しいところ。

そもそも、バガボンドの終了をほのめかした背景には、『スラムダンク』のラストが一種の成功体験になっていたことがあるらしく、以下の様に語っています。


『スラムダンク』のラストのときのような状態に自分が入っていくことを期待して、いろいろまわりから作っていったけれど、そうはならなかった。結局ワクワクしてこなかったんです。まだ「そのとき」ではなかったんでしょうね。僕が勝手に、「今がその時」と決めつけていたんでしょう。(本文p.178)

自分を追い込み過ぎてしまった結果は、極度のストレスとして著者自身に襲い掛かり、めまい・頭痛・目の変調といった症状から、ついにバガボンドの制作が不可能な体調へと追い込まれてしまいます

バガボンド休載中のインタビューで「今は症状はないのですか」という問いに

仕事をしなければ、ないんです(笑)(本文p.40)

と答えている様に、メディカル検査の結果も、脳・心臓ともに異常なし、というから、原因はあきらかにバガボンドにあった、という事でしょう。

興味深いのは、バガボンド休載期間中も『リアル』の連載は続けられていたという事。
両者の違いについて井上雄彦によれば、


「リアル」については

『リアル』は「普通のもモノ作り」といえばいいんでしょうか。材料が目の前にいくつかあって、僕はそれを料理するというか、組み立てる。そういう工程が「リアル」なんですね。(本文p.107)
「リアル」に関しては、いわゆるマンガの作り方というのか、そういう「作り方の過程、工程」を、ここ最近ものすごく丁寧にやっています。
(本文p.108)

一方「バガボンド」については

『バガボンド』はもっと個人的なものなんです。そこに方程式のようなものはなくて、自分としてはマンガを描いているのかどうか、それすらもちょっとわからないような感覚があります。(本文p.107)
『バガボンド』を描くときは「絵的な挑戦」があるんです。(本文p.106)

漫画化として、漫画作品として描いている『リアル』に対し、個人としての井上雄彦の内面から湧き上がる一個の挑戦が『バガボンド』といった所でしょうか…。だとしたら心身が擦り減るのも、当然な気がします。
この様な井上雄彦の姿勢が武蔵の姿にダブッて見えてしまうのは私だけでしょうか…。


休載中の注目すべき活動に東本願寺へ納品された親鸞の屏風絵があります。
制作は難航し、正にデッドラインぎりぎりの2011年3月10日に東本願寺へ発送されるが、翌日に大震災が起きるというのも、何か運命的なものを感じます。その後この屏風絵は今年3月に被災地、大船渡のお寺で再度公開されるのですが、井上雄彦は現地で公開直前まで筆を加えています
屏風を眺める地元の人たちが、その前に立ったり座ったりして、手を合わせたり、あるいは涙を流したりしていたという話には感動しました。


本書のなかにその写真が載っていますが、是非実物を見てみたいものです。是非首都圏でも公開をお願いしたいものです!

結局『バガボンド』は連載ペースを月一回へと変更し、今年3月に連載を再開しました。
この先のストーリー展開はまったく手さぐりの状態の様ですが、武蔵のごとく、道を進んでゆく井上雄彦の今後には期待が高まるばかりです。


読後の感想・おすすめ度⇒★★★(井上雄彦ファンのみならず、すべてのクリエイター系の方は絶対読むべき!)

┃ Tag:井上雄彦

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