== ビジネス・人文 ==

震災以降の言論状況インデックス『思想地図β2』

東浩紀が編集長を務める思想地図βのの第二号!3.11大震災の特集号となっています。
思想地図β vol.2思想地図β vol.2
(2011/09/01)
東浩紀、津田大介 他

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巻頭言で東さんは“がんばろう東北”“ひとつになろう日本”といったスローガンとは裏腹に、震災で我々はばらばらになってしまった、との現状認識を示します。
その主旨は、
あの3月11日の地震発生時に、空間的に何処にいたのか、海岸か、低地か、高台か、福島か、宮城か、東京か?その選択にいかなる意味もない。にもかかわらず実際の経験は、“死”から“テレビで津波を見ている”迄、全くばらばらなものだった。加えて原発事故による放射線被害。特に明確な基準のない低線量被爆問題が、居住地域、家族構成、所得の差異による危機感の落差と相まって人々の心をばらばらに引き裂いてゆく。『考えれば考えるほど、ぼくたちは統計と数字の迷宮に囚われ、確率的な存在に変えられ、そして連帯を失ってゆく』(本文より)というものです。

一方、こうした状況から「新しい連帯」へ向かう第一歩として、大阪でのシンポジウムや巻末の和合亮一との対談では『喪の作業』の重要性を指摘しています。これ程莫大な喪失を経験した日本社会には、お通夜やお葬式がなければならない。そういう作業を経ない復興や希望の言葉は実はカラ元気であり忘却にすぎない。日本社会は、今ばらばらでポジティブな夢を共有できない。それゆえ喪を通じて連帯を構築する必要があるのではないか。という主旨を述べています。

東さんの文章を読んでいて、なるほどと思うと同時に軽いショックを受けました。自分もテレビから溢れてくる、一つになろう!がんばろう!というスローガンには、ほんの少しの違和感を感じていましたが、同時に震災直後のtwitter上で、ある種の一体感や高揚感を感じていたからです。

それ以外で特に心にのこったものは“津田大介の被災地のルポ”“東浩紀×猪瀬直樹×村上隆の対談”“佐々木俊尚のGov2.0論”です

津田さんのルポでは、特に「弱者=善良」というステレオタイプのマスメディア報道では伝えられていない避難所の実態を知らされ驚きました。避難所で服を配っていると、ひとりの中年女性が『こんな柄物の服着られないわよ!』といって投げつけてしまう。同種のトラブルがあちこちの避難所で起きていること。そうした行動が生まれる背景。皆が公平に困難に耐えていることで辛うじて保たれている秩序。公平性が崩れた時に起きるトラブル。
ショックでした。こうした修羅場になっていたとは…。アホな行政の役人が公平性を重視するあまり救援物資がなかなか届かない、テレビを見て単純にそう思ってました!そうせざるを得ない深刻な状況があったんですね。しかし明日は我が身。東京で同じ事態が起きたら、その範囲も深刻さも、ずっと大きなものになるはず。事態の深刻さが日本人のガバナビリティの上限を超えてしまった時、諸外国に見られる様な無秩序状態に陥るかも…という不安を感じました。さすがにバイオレンスジャックの様にはならないとは思いますが…。

“東×猪瀬×村上対談”では猪瀬さんの発言が面白かった。
漱石・鷗外の比較論。明治国家がベニヤ板で城壁を張ったような急ごしらえの国家だとの認識は、両者に共通している。そこで漱石は三四郎の中で広田先生に、日本はこのままでは滅びるねといわせている。一方鷗外はベニヤ板の城壁ならば内側をもう少し耐震補強すべきだろうと考える。晩年、体調不良の中、図書館で資料にあたり過去の元号一覧表を作成し弟子に託して死んでゆく鷗外。漱石の立ち位置は、責任ある主体から逃げているだけの放蕩息子であり、他方、鷗外のそれは統治システムときちんと対峙した家長である。放蕩息子の系統が漱石→太宰→村上春樹と受け継がれる一方、家長の系統は途絶えてしまう。文学も政治も放蕩息子ばかりだが、震災の今こそ、もう一度家長の思想が必要だ。こんな主旨なんですが。作家と同時に行政官でもある猪瀬さんはさすがにリアリストだなぁと感心した次第です。

佐々木俊尚のGov2.0ををめぐっての復興論は、こんな発想があったか!と素直に感動してしまいました。
近年のビジネスの収益構造が、従来の日本メーカーの垂直統合モデルから、プラットフォーム(AppStore,フェイスブックetc)の構築とその上で成り立つモジュールビジネス(アプリ開発、グルーポンetc)へ主役が交代していることに例えて、復興計画を語ります。即ち、津々浦々でニーズの異なる復興計画をたとえば「高台への集約移転」という単一の垂直統合的プランでまとめきることは不可能。垂直統合するのではなく、復興をプラットフォームとして政府自治体が提供し、モジュールである被災地と非被災地がそれぞれの立場で有効活用するべき。
うーん素晴らしい!なんかこれなら問題を解決できそうだ!でも私のようなボンクラ頭ではその具体像が浮かばないんです。せめてひとつでいいからexampleを示してほしかった(^_^;)そうすれば画期的復興論になると思うんですが…。佐々木さんの更に突っ込んだ話に期待が膨らみます。

本書全体を読み通して感じたこと。
本書は、ドヤ顔でこれが日本の進む道だ!と指し示すものではありません。想定外の事態が起き「終わりなき日常」が終わってしまった事へ対して、それぞれ言論人としての、戸惑い、不安、苦悩、それでも一歩前へ行こうとする思考、が正直に書かれています。震災後半年の“今”思想は現実と如何に対峙したか、そのインデックスともいうべき物だと思います。実際、巻末には今回誌面に登場しなかった主な言論人の震災への発言内容がコンパクトにまとめられており文字通りのインデックスとなっています。
10年15年後の日本がどうなっているかは神のみぞ知る所ですが、そこで2011年を振り返ってみた時、本書は貴重な思想のゼロマイルストーンとなっているのではないでしょうか。

最後に、かつてニューアカデミズムをファッションとして消費し、ブームが去るとゴミ箱へポイと捨て去った20世紀少年のひとりとしての自戒を込めて東編集長の次の一文を引用させていただきます
『願わくば、もういちど「考えること」が力を取り戻さんことを。』

読後の感想・おすすめ度⇒★★★★★(本体価格の3分の1が義援金として被災地へ送られます!)

┃ Tag:思想地図β 東浩紀

┃ テーマ:読んだ本の紹介 ━ ジャンル:本・雑誌

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